吝嗇家の幸福−私信ミスター・マサト・ヒガ宛−
先生へ。
相変わらずのようで安心しています。手紙をありがとうございます。わたしも先生に逢いたくてたまりません。でもだからこそ逢わない方が良いという先生の意見に賛成です。お互いの定宿に届く、まとめて受け取る手紙の方が、恋しさは募ります。世界のどこにいても先生を想っています。悲しまないで。私の不在は先生にとってインスピレイションの欠如ではありません。不在こそがエナジーの源なのです。わたしにとってもそうです。どんな酒よりも、どんなに長いホワイトラインよりも、先生に抱かれた思い出は強烈です。
先生と同行しスキーしたこと、猟をしたこと、皆既月食もよく覚えています。きっとそれはわたしの中で澱のようにたまり、わたしの人格を形成していることでしょう。わたしもモルディブのクルーザーのパーティよく覚えています。そんな恥ずかしい写真をまだ持っていらしたとは思いませんでした。あの時は大勢の女の子にかこまれて先生は不機嫌そうでしたので。わたしがダンスしても先生はいつも気に入らないとおっしゃっていました。わたしが歌っても。わたしがそばに居ても居なくても。先生の事はいつまでも大好きです。
リリカより。
そこまで書いてリリカはペンを置くと、同封されていた500万ドルの小切手とヘロイン300gを小さなパーティバッグに入れてイブニングドレスに着替えた。ヘロイン100gを着替えを手伝った肌の黒い男に与え、エスコートさせる。すでにダンスを踊らなくなっても稼げるようになっていたリリカは、存在だけで金銭を手にしていた。金を得るために裸になることもない。もちろん身体を開くこともない。リリカは自らの吝嗇を、浪費家の比嘉に教育され、価値を高めたのだ。今でも一番大切に想っているのは比嘉だった。だからこそ逢わないほうがいい。逢ってしまうとまた彼の奴隷のようになってしまう。もうあんな嫉妬・否定・翻弄・混乱・驚愕・呆然はたくさんだった。
なぜ満足できないの?なにが不満なの?こんなに大切に想っているのに?疑問ばかりで答えは一向に出てこなかった。だからもううんざりだ。先生の不在こそがわたしの幸福なのだ。
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